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エッセイ「年輪を刻む笑顔」


                 

 品のよい雰囲気を醸し出したお年寄りがバスを待つベンチに向って歩いてきた。片手にバックと買い物袋を提げ、もう一方の手は杖をついている。背中を少々丸め、肩を落とした姿勢は80代半ばと見受けられる。親しげに笑みを浮かべながら重荷を下ろすように私の隣の席に座った。
「お元気そうですね。私などはすぐに疲れますが・・・」と声をかけると、
「疲れます。でも歩かないといけないので買い物にはくるようにしています。先に逝かれてしまって、一人で住んでいます。」
「私も一人です」と心の中で呟いた。
「何でも若いうちにやらなくちゃね」
「ええ 本当にそうですね」
「毎日辛いです」
「えっ! 毎日辛いのですか?」
「辛いです。なかなか迎えに来てくれなくて。自分で逝くこともできるんですよ。でも息子がいるから、迷惑をかけるので」
「?・・」
穏やかな年輪を刻む笑顔とは似合わない会話に一瞬言葉を無くしたが、意表をつく会話術のようにも思え、あえて微笑みを返した。
だが辛いのは本当だろう。信じられないがもうすぐ70歳を迎える自分、年寄りという実感はまだ遥かに遠いが事実だ。このお年寄りと同じ年代になったら、こうしてバスに乗って買い物に来る元気はあるだろうか。今でさえ人ごみを敬遠しているのに。
息子がいると言っていた。私には夫も息子もいない身の上。心で比較して羨ましさが残る。
優しい品のある笑顔はどこからくるのだろう。それは人に安らぎと安心を与え、静けさと平和のエネルギーをも放ちます。
お年よりは次の駅で降りた。追いかけてもっと話を聞きたかったが、足取りはしっかりしていたので、心の中で出会いを感謝し別れを告げた。

 車窓から見送って回想すると、一人住まいと言っていた。買ってきた食材を自分で調理し、身の回りもこなしている。その自立心が表情に表れているのだろうか。
「施設に入った方がよいとも思うのだが・・」とも言っていた。

 高齢化時代が本当にやってきた。これから先、人間は何歳まで生きるのだろう。
2008年の統計によると、日本人の平均寿命は女性82.6歳で世界一位、男性79、19歳で世界三位という。
先日、あるグループホームで102歳を迎えたお年寄りが、華奢なスタイルにモダンなサングラスをかけて
「あたしね 死ぬのを忘れちゃったみたいなのよ」
やはり、人に安らぎと安心を与え、しかも静けさとユーモラスなエネルギーを醸し出して語っていた。

                                             ゆう
  
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