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エッセイ「男はえらい!」    

                  
 それはトイレ改修工事の日のことです。
梅雨も明けて風もない暑い日
還暦を迎えた年の頃の職人が禿げ上がった頭に前歯の欠けた太り気味の身体を動かして楽しげに仕事をしている。
取り払った古い便器の跡に座り込み、壁にパネルを貼っている。
「かっこよくやってくれと言われたからな!」
汗でびっしょりになった背中に団扇で風を送ると、
「あぁ涼しい!・・・癖になるからいいですよ」と言う。
時折、階段の踊り場に下りて、水とたばこで一服し、順序良く作業を進めていく。

「昼食は?」
昼の休憩時間はとうに過ぎている。
「休んだら作業ははかどらない。この身体だ。お察し下さい」と言う。
作業の流れには手際のよいリズムがある。残屑で散らかすこともない。
びっしょり濡れた背中から職人の誇りが滲み出る。
「男の人はえらいですね。こんなことは女には絶対できない」
「男はえらいんだ!だけど家に帰るとねぇ・・・」
急にだらしのない顔になる。
私は爆笑する。かかあ殿下に頭があがらないのだろう。

 やがて、改修作業は終わり、狭い室内には新品の便器がどっしりと構えている。裾に黒いパネルが格好よくアクセントに仕上がり、職人の目は達成感で輝いている。

「60歳で退職した友人がいる。サラリーマンはいい。残りの人生をのんびり生きられるからな。女房はいつも言うんだ。僕らは老後の計画が立たない。だからいつまでも働かなきゃならない。」と、ぼやくが、輝く目、大きな背中から心の豊かさを感じ取れる。

冷えた西瓜をペロリとたいらげ、
「うまかった。今年の初もんだ。甘かった!」 
幸せそうな顔を残して退散した。
                            ゆう

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