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エッセイ「心に残る賀状」


 毎年師走になると賀状作りに心急かされる。それが億劫で出さない人もいるが、元日に束ねられた賀状をポストから取り出す楽しみはこの上ない。
そう思って私も毎年出すことにしている。
昔は版画などの創意を工夫した手づくり賀状が殆どだったが、今はパソコンとプリンターがやってくれる。文明の利器のおかげできれいなイラストがどの賀状にも印刷され個性がなくなっている感がある。また家族の、特に子供の写真が多いのには家族の無い身にとってはちょっと淋しい気もする。

そんな中でも毎年心の残る賀状がある。無限の力を与えてくれる心のこもった賀状は私にとって宝である。今年のそんな作品を紹介したい。

 合唱団の大先輩の作品(90歳女性)
「大きな期待を持って迎えた二十一世紀、またたく間に十年が過ぎました。世の中の変化にはびっくりします。自民党に見切りをつけ、民主党へ政権移行して一年半、鳩山さん、菅さん、約束違反が多すぎ、また首相交代でしょう。大政翼賛会みたいな連立や軍需産業支援の政策の危うさ、戦前を知る私たち世代には悪夢です。…」表も裏も印刷されている。家族が手伝ってくれたのだろうか。
そしてコメントには「多方面にご活躍の靖子様、コーラスにも貴重な存在で、よろしくひっぱってくださいませ」と、私を褒めてくれている。いつも頬紅を薄くつけて背中を少し丸め、ソプラノの席に座っている。歌声はあまり聞こえないが、優しい気骨が感じられる。

 合唱団の大先輩の作品(86歳女性)
変体仮名を太字と細字の毛筆でバランスよく書かれており、その達筆には年輪を刻んだ奥深い安らぎを感じる。亡き母のかつての賀状を思い出す。
そしてペン書きのコメントがあり、「素晴らしい人が、まして私の横で歌ってくださるので大変嬉しく大助かりしています」と、やはり私を褒めてくれる。

 合唱団の先輩の作品(70代女性)
スカイブルーのグラデーションをバックに、刺繍てまりを抱えたうさぎが描かれている。「ブログを拝見しています。ご立派なお母様ですね。あなたの多才な点も興味深く思っています」、体験記を読んでくださり、そこに書かれた私の母のことをも想像して褒めてくれている。母も遺影の中で笑っている。

 詩人・作家(60代男性)
「文学は素朴で孤独な心から生まれる」とコメントが記されている。
私は孤独に弱く、時には打ちのめられそうになるが、「人間が孤独であるということは深い悲しみと慰めに満ちた真実であり、単純なことである。モーツアルトは素朴に無邪気に孤独だった。その孤独が本物だったから音楽も本物になった。・・・」と自身の著書の中で引用している。そして自らも素朴な孤独を求めて旅をし、作品を書いている。
今年、私は悲観的な孤独から脱却できたような気がする。

 箏師匠(80代女性)
絵手紙風賀状。まりのようなうさぎが野原に座っている。温かい色彩。心にポッと灯がともる。「今年は是非お会いしましょうネ」と言ってくれる。

 箏師匠(70代男性)
 新年を迎えてもめでたいことなど何もないので20年前から年賀状をやめ、そのかわりとして生きている証に年頭の寒中見舞いを下さる師匠である。
最近の出来事について思うこと、として次のように書かれている。
「米軍基地を国外か少なくとも沖縄の外へ・・・と言ったことが駄法螺だったと分かった以外一歩も進まず。日本領土の島の領有について理不尽な言掛りと居座り、それを今までずーっと処理しなかった政権党が現政権の弱腰を罵る無様と、それに乗じて軍備増強はては核装備まで叫ぶ声の喧しいこと。日本の敗戦から65年たっても未だ世界のあちこちで戦禍が続いています。戦争によって得るものは何もなく、ただ悲惨が残るだけ。憲法九条は日本の宝。そして世界の宝にしたい。
日本列島は全長3500kmあるそうです。地球という球面上に存在していますからその両端を、地中を通った直線で弓の弦のように結ぶと、弓の中央(たぶん神戸あたり)は弦より240kmほどそり上がっています。更に神戸の250km上空から下を見ると北はエトロフ島、南は尖閣諸島のもっと南の八重山列島が水平線上に見えます。このように丸い地球上の国々と仲良く丸く治まって平和に暮らしたい。」
尺八奏者でもあり、生命讃歌の作曲家でもある。

 ヘルスアドバイザー(60代女性)
「大きな目標・決意・覚悟、“今”という人生を大いに楽しみたいもの」
今年の私の目標は正にこれである。私にエールを送ってくださっている。
かつて彼女のメッセージ“今というあなたに”に付曲し、歌と演奏を楽しんでいる。

 みかん農園経営者(70代女性)
「みかんの木に元気をもらって働いています。世の中のいざこざも緑の中では聞こえません。またいらしてください。お待ちしております」
このお誘いに引っ張られ三年前に下田方面を旅したことが想いだされ、また行きたくなるような気持ちにさせてくれる。

 京都在住の同級生(60代女性)
「明けましておめでとうございます。ご無沙汰いたしておりますがお変わりなくお過ごしですか。お寒くなります。お身体おいとい下さいませ。お祈り申し上げます。」毎年淡々とした文章だが、整った美しいペン字の行間からエネルギーが流れ出るのを感じる。

 友人(60代女性)
黒豆煮・かずのこ・紅白かまぼこ・伊達巻・田作り・なます、お正月のご馳走が一つひとつの器に並べられ、南天の花を添えた写真が貼られている。
見るからに豪華で美味しそうである。このような料理から遠ざかった私に目で味わってもらおうとする友人の優しい心配りである。
コメントには「今年は楽しみの年になりそうですね」と書かれている。私にとっては試練の年なのだが、彼女はそれを乗り越える私を見ているのである。凄いソールメイトである。

十二支占いの賀状を送ってくださる師匠もいる。2011年は七赤金星辛卯年で、公私とも社交的で明るい人に勝利の女神が微笑むそうである。午年の私は愛情まずまず、金運小吉、健康大吉、仕事注意、娯楽小吉で派手な言動を避け、勤勉努力で安泰とのこと。私らしい生き方ができそう。

ともあれ「寒さはこれからですのでくれぐれもお身体を大切になさって下さい」というコメントは真に心のこもったメッセージに受け取れる。それにしても美しい字を書く人はそれだけで優しさが伝わってくるものである。曲って見にくい字を書く人との差はどこにあるのだろう。

やはり心に響く賀状というのは、千篇一律ではなく相手のことを思い、優しく労う工夫や一言が文学的であると年頭に実感した。

心に響き私に無限の力を与えてくれた賀状、私はその心を貯金しておこうと誓い、ここに記すことにした。                                                                                           2011.1.11

                                            ゆう

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